無効分散する魚たち
伊豆や紀伊半島など温帯域の海は秋が面白いと聞いている。
それは黒潮に乗ってカラフルな南の魚たちがいろいろと流れてくるからだそうだ。
その多くは幼魚でしばらくはそこで育つが、冬になり水温が下がると死んでしまう。
これを昔は「死滅回遊」と言っていたのだが、実際は回遊して本来の分布域へ戻るわけではなく、言葉として適切ではないということで、現在は「無効分散」とよばれている。
これらの魚たちは単純に沖縄から流れてくると思いがちだが、黒潮は台湾と与那国島の間から沖縄本島や奄美大島などを避けるように東シナ海を北上し、屋久島近海で太平洋側に流れ込むので、四国や本州の太平洋側の各温帯域に無効分散する魚たちのメイン供給地は屋久島近海だと考えるのが自然だ。
クマノミやツユベラ、カンムリベラやミナミハコフグなどダイバーの間で人気のある魚たちの多くは、屋久島産まれかもしれない。
そんな無効分散する魚たちの供給元である屋久島だが、当然、屋久島にもさらにもっと南から流れてきて成魚になることなく死んでしまう魚たちがいる。
つまり、ここ屋久島にも無効分散する魚たちは存在するのだ。
チョウチョウコショウダイ、アカメハゼ、イロブダイなどがそんな魚たちで、これらは黒潮の発祥元である台湾近海から流されてくる連中だと考えられる。
こうした魚たちは屋久島では四国や本州の太平洋側の各温帯域よりも一足早く、初夏から真夏にかけて流れてくる。
黒潮が完全に接岸する7月上旬がその時期だ。
つまり屋久島の海は秋よりも夏が面白いのだ。
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